京都ぼっち日記

京都で孤独の楽しみ方を考えるブログです。

『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』

先日,平田オリザさんの『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』を読んだ。

約1年前に購入した本だが,受験勉強などとも重なり,ずっと読めないでいた。

随分前のことなので,はっきりとは覚えていないが,この本を購入した時は漠然と人間関係に不安を感じていた。

なぜ周囲の人に自分の気持ちを伝えられないのか,なぜ友達と呼べる友達ができないのか,そんなことばかり考えていたと思う。

買ってすぐ読もうとしたが,どこか不安な気持ちが拭いきれなくて,冒頭の部分で読むのをやめてしまった。

 

少し時が流れ,そのときとは考え方も少し変わったように思う。

大学に入って,人間関係の悩みは減った。

そんななかでも,自分には「コミュニケーション能力」がないということは感じていた。

なぜ初対面の人に話しかけられないのか,なぜ知り合いと話すときもぎこちなくなってしまうのか,なぜ家族と話しているときでさえすれ違ってしまうのか,なぜ店員さんにもはっきりと受け答えすることができないのか

そんな風に考えることが多い。つまり,自分は「コミュ障」だと思っている。

その悩みを解決する手がかりになるかもしれない,と思って手に取った本が一年前に買ったこの本だ。

前置きが長くなったが,内容の紹介をしていく。

 

この本は,日本で近年唱えられている「コミュニケーション能力」や「コミュニケーション教育」について,筆者の体験談を交えながら,主張している。

 

早速冒頭の部分から,なるほどと思うような言葉があった。

いま,日本社会は,社会全体が,「異文化理解能力」と,日本型の「同調圧力」のダブルバインドにあっている。 

たしかに,企業採用や学校の授業など公の場で「コミュニケーション能力」と言われる場合には前者を指すことが多いように思う。

「他者の考え方を理解して受け入れる」ことはよいことだ,もっとその力をつけなさいと言われることは多い。

一方,ツイッターや私的な会話で「コミュニケーション能力」と言われるとき,後者のようなことをさすことが多いのではないだろうか。

たとえば,「アイツは空気が読めない」とか「ノリが悪い」,「だからコミュ障なんだよ」という風に。

だから,自分が「コミュニケーション能力が低い」と自覚した時,相手の意見を受け入れる能力か,周りに合わせて目立たないように行動する能力かどちらをつければよいのか迷いが生じて思い悩むのだろう。

 

長くなってしまいそうなので,自分の心に響いた言葉を引用するにとどめたいと思う。

興味を持ってくださったら,ぜひ読んでいただきたいと思う。

 

日本では,コミュニケーション能力を先天的で決定的な個人の資質,あるいは本人の努力など人格に関わる深刻なものと捉える傾向があり,それが問題を無用に複雑化していると私は感じている。 

実感を伴って心に残った箇所である。

「コミュ障」と思われたり,「コミュ障」と自虐したりするとき,自分の人格が貶められている気がしたり,貶めている気がしたりする。

だが,「コミュ力が低い」は「数学が苦手」とか「絵が下手」とか「音痴」とかそういうレベルの問題と同じなんだと気づかされた。

コミュ力が低い」からといって,必ずしも「性格が悪い」ということではない。

また,「コミュニケーション能力」をつける授業というのは,受けた記憶がない。

 「数学が苦手」よりも軽い悩みなのではないか。そんな気さえした。

 

さらに,コミュニケーション能力とは関係のない部分かもしれないが,次の箇所も印象に残っている。

本当の自分なんてない。私たちは,社会における様々な役割を演じ,その演じている役割の総体が自己を形成している。 

ここ数年僕は「本当の自分」って何だろうということを頻繁に考えてきた。

しかし,それは意味のない問だったのかもしれないと気づいた。

意味がないどころか,いろいろな社会的役割を演じ分けられないことの言い訳にしていただけかもしれないと思った。

どんな場面でも同じように「自分」というものを貫きとおすことはできないのかもれない。

ある友人の前での自分とある知り合いの前での自分,見知らぬ人の前での自分,一人でいるときの自分,家族の前での自分が違っていてもその場にいて考え,行動している人間は,全部自分なのだと思った。

「役割の総体」という表現も素晴らしいと思った。

いろいろな場面で行動している自分の平均というか総和をした者が自分であり,どれか特定の場面の自分だけを「本当の自分」にしてしまうのは,ほかの場面での自分に失礼だ。すべての場面の自分を平等に扱ってあげなければ。と思った。

 

予想以上に長くなり,内容についての紹介はほとんどできていないが,コミュニケーション能力という言葉の曖昧さが晴れるような本だった。ぜひ読んでみてほしい。

 

わかりあえないことから──コミュニケーション能力とは何か (講談社現代新書) [ 平田 オリザ ]

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